2012年11月20日

晩秋

 やっと大好きな富有柿が出回りました。甘みの増した富有柿は11月の中旬にならないと出回りません。秋の季節も遅くなり寒さに当たらないと甘みが増さないためです。夏の終わり頃から様々な果物が店頭に並びます。秋が始まった頃には葡萄も梨も終わりに近づき、秋の始まりにはもうそれらの果物の旬は終わります。秋を代表する果物はリンゴと柿くらいしか見あたりません。季節の先取りの走りを楽しむ粋や通の食生活が、季節の果物や野菜の本来の実りの時期とはずれたものにしているようです。冬に向かって暮れていく季節に柿の肌は色合いを濃くしていきます。夕暮れに浮かぶ南西の三日月が、辺りが暗くなると光を増していくように、柿も晩秋になるにつれて味も色合いも深めます。季節の深まりと共に実っていく果物や野菜には本来食物が持つ命の力が備わっているはずです。しかしながら、植物の本来の実りの季節を変えてでも食べたい人間の目先の欲望は、商品としての価値を持つと同時に地球の資源にも相当の負担をかけているのも事実です。枯れていく晩秋の柿の木の柿はその色と存在を野に放っています。

 人間は分かっていても絶えず刺激がないと喪失感に囚われる、満足に飽き足らない足を知らない生き者のようです。衣食に足りるとどこまでも贅沢を求め、その贅沢が常態化して当たり前になると際限なく次の刺激的な贅沢を求めるのが人間の欲望の業かも知れません。多分人間の欲望はどこまでいっても満たされないはずです。それが業なのです。果たしてこの地球は人間の果てしなく続く欲望にどこまで付き合うのか、どこまで持ちこたえられるのか、一度立ち止まって考えなければならないはずです。現代の人間が今の勢いで消費し尽くしてこれから続く子孫の分まで資源を提供できるのか、現代人だけで地球の持つ様々な資源を消費して汚染していくのは身勝手なはずです。この先の遠い未来ではなく子供達の将来を考えても、10年先のビジョンさえ描かない浅はかな政治家に任せるのではなく私たちの日常の中で足を知る季節に合った生活を取り戻す必要があります。

 この小国の地に来て忘れかけていた本来の季節の巡りを取り戻したような気がします。今年の秋は、秋の紅葉の美しさを満喫しました。赤や黄に染まる紅葉が美しいのは当然ですが、色が日毎に移り変わる山々や木々のその変化の過程を見ることが出来ました。今はほとんどが枯れ葉か葉を落とした木々しか見られませんが、紅葉の盛りに至る葉の色合いの変化まで見られたのです。昨年も秋を通り紅葉も見ていたはずですが全く覚えが無いのです。昨年は宿の立ち上げとお客様のおもてなしに全精力を注いでいたため、周りを見るゆとりも無かったようです。秋は茸や野菜は多いのですが、里芋もおいしい物が手に入ります。時松さんの所の野菜はトマトを始め何でもおいしいのですが里芋も味に深みがあります。

 また宿の掃除をして頂いていた地元の方が下さった里芋が思い出の野菜となりました。その方は、春に地熱の蒸気で蒸した筍の地獄蒸しを届けて頂き、お客様にも好評を頂いておりました。また、私の大好きな採れたての新じゃがも届けてくださりました。宿の掃除が済んで帰り際に、慣れない女将に女将さん頑張ってと声を掛けて下さる心優しい方だったのです。最近は採れた里芋を持ってきて頂き早速蒸かして柚子味噌で食べていたのですが、最近姿を見ずにどうされたかと思っていたら、突然52歳の若さで亡くなってしまわれたのです。人との関わりをいきなり断ち切られることは、その人が誰であっても胸の中に痛みが走ります。宿に予約が入れば掃除にいつも来て頂くはずの方が、季節の産物を笑顔で届けられていた方が、急に私たちの前からいなくなられるのは、秋の枯れ草の上を冷たい風が走り抜けたような気になりました。来年も筍の地獄蒸しの季節を迎えると疑わないので、その方にはお別れの挨拶も産物のお礼の言葉も十分に尽くさぬままに逝ってしまわれたのです。まだ、里芋の季節は終わっていないのにです。

 秋が深まり植物たちは冬を越す休眠の準備にかかりました。それはあくまでも春となり新しい息吹をよみがえらせる次につながる周期の巡りに過ぎないのです。秋は野原を枯れ草色に染め上げてしまいますが、命の種は潜ませているのです。厳寒の寒さに命をつないでいくためには、温かい土の中で暫くは休むしかないのです。柿は冬を越すために甘みを体内に蓄えようとするために甘くなるのです。秋の深まりと共に春を迎える準備をすることなく人生を閉じることは、晩秋の寂しさを一層もの哀しくするものでした。しっとり落ち着いた色を見せる晩秋は人生の最後の舞台にふさわしすぎる季節でもあるようです。枯れ草色の晩秋が人生の最後の舞台ではなく、春を迎える準備の季節としてあるためには、命の種をどこかに宿しつつ冬を迎えねばならないのです。

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浮羽市の「種の隣」の柿
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オーナがこだわって育てる柿の味は秀逸
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「種の隣」はオーガニックカフェー 雑貨 和菓子 日本の伝統文化を守るための着物の普及にも力を注がれています
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杖立の松原湖の晩秋
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湖面は晩秋の樹木を映しています
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24年11月20日
古天神 井崎

  

 
posted by 風のテラス 古天神 at 16:24 | Comment(0) | 風のテラス便り
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