2011年05月05日

九州再発見

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昨年の7月仕事を辞めて以来、宿の研修以外どこにも行かずほとんど家に籠もって料理の研鑽を積んできました。料理の道は厳しくて、まだまだ未熟の域を出ませんし、東北の震災も依然として悲惨な状況は続いていますので、迷いはありましたが、かねてより念願だった汽車の旅を、家内と4月25日から二泊三日で行ってきました。九州内を家族で旅行するときはほとんど自家用車を使っていたのですが、九州の観光列車は斬新な外観と、九州らしさを取り入れた内装やデザインが全国の鉄道ファンから注目されているらしく、いつかはとあたためていました。

 それと列車に乗りたいもう一つの理由は、恥ずかしいことにこの年になるまで、九州の内陸部を横断特急が走っていることを知りませんでした。アメリカの大陸横断は西部開拓を辿る旅でもありますし、貧しいバックパッカーはヨーロッパにもっとも安く行くためにシベリア鉄道を利用していました。五木寛之もシベリア鉄道を利用した主人公の作品を書いています。沢木耕太郎の「深夜特急」も旅の作品としては秀逸です。日本はアメリカの一つの州でしかないカリフォルニア州よりも小さいのです。私たちは、佐賀から北海道まで車で走ろうとは余り思いません。しかし、アメリカ人は西のロスから東のNYまで1週間掛けて車で走る事があるようです。体の中の地理感・距離感が日本人とはスケールが違うようです。空間に対する認識が違うことはものを考える概念把握の上で感覚の違いが出てくるのかも知れません。佐賀から北海道まで走ることはとんでもなく遠いことではないと思えるようになりたいものですが、関西までも車で走ったことが無いので、今以上に空間の認識を広げることはたやすいことではありません。

 巨大な阿蘇山が真ん中あたりにドーンと座っているために、九州を横断して山岳地を鉄道が走ることは不可能と思いこんでいたのです。単に地理の不勉強かも知れませんが、熊本から別府までの九州横断特急があることを知ってからは、いずれは乗りたいものだと小さな夢を膨らませていました。初日は新燃岳の噴火の影響を受けている霧島温泉まで、「SL人吉号」「いさぶろう」「隼人の風」と観光列車を乗り継ぎました。この慌ただしい現代において、ゆっくと走る蒸気機関車のSL人吉号は、ゆっくりにしか走れない、そこにこそ失ったものを取り戻すかのような安らぎがありました。時折車内に流れ込む蒸気機関車の石炭を焚く煙のにおいの懐かしかったこと。列車内のサービスを務める女性のアテンダントは、ただ単に笑顔を振りまく昔の花形と違いしっかり仕事をされながら、観光列車に乗務する仕事への誇りとお客への愛情溢れるサービスを感じました。旅を好きな行きずりの旅人達との交流が楽しく、最後尾のパノラマ席を離れられませんでした。球磨川を右に左に交わしながら、遠ざかるレールはこれまでの様々な思いも一緒に乗せて流れていくのです。

 翌日は九州新幹線で鹿児島から一気に熊本に戻り、いよいよ大陸横断鉄道です、いや、九州横断特急です。一応特急なのに、たったの2両のディゼル機関車です。少し頼りなさそうなので山を越せるのかと心配になりました。前日の「いさぶろう」でも初めて体験しましたが、急な山を列車が登るための方法があるのです。それは、ある標高まで進行すると、線路を一端は逆に走行して戻り、次に線路のポイント変換して前に上って行く、スイッチバック方式です。それを立野まで行って阿蘇の外輪山を登っていくのです。雄大な阿蘇はかなり遠くからでも横たわっている涅槃の姿で見られますが、走行している列車の右の方には確かな阿蘇山が、烏帽子・杵島岳・中岳・高岳・根子岳とそびえ立って続くのです。九州を横切って、阿蘇山を遠巻きに横断特急は走るのです。6月からはこの線路を復活した阿蘇ボーイが走るらしく、列車の旅の楽しさが期待できそうです。竹田を過ぎ、岡城趾を遠くに眺めながら、大分を通過したところで海が開け、別府湾の向こうに横たわる仏の里の国東半島は、すでに夕暮れにかすみ始めていました。文人が好みそうな小さな静かな宿でも、若いながら落ち着いた仲居さんのもてなしに和ませてもらって、ゆっくりと温泉に浸かり、おいしい料理を堪能しました。3日目はあいにくの雨となり湯布院の散策は次の機会に回し、九州の観光列車第1号の「湯布院の森」号で鳥栖に戻りました。

 外国に出かける方が多い中で、どうしても国内にこだわってきました。外国に気軽に行ける時代となり旅行といえば海外位に出ないとという風潮もあります。もちろん、見聞を広めるためには若い世代には是非とも海外に出て欲しいのですが、私は地元である九州の足下にも見所や魅力ある景観は多くあるよう気がします。川のせせらぎを聞きながら温泉に浸かる喜びは海外では味わえない旅の楽しさです。私が温泉を持ちたいと思ったのもそこにあるのです。あちこちを見て歩く旅も楽しいのですが、年を重ねるとじっくりと景色の中にも、温泉にも浸かって、自分の中にため込んだ疲れを解きほぐし、明日への活力と人生を見つめ直せるゆっくりした時間の中に至福を感じたいのです。佐賀に住んでいると九州は身近すぎて、若いときは余り興味を持てませんでした。しかしながら、今回の列車での小旅行は九州の味わい深い魅力を再発見出来るゆったりとした列車の旅となりました。

23年5月6日   
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posted by 風のテラス 古天神 at 21:59 | Comment(0) | 風のテラス便り
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